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研究者情報:研究・産学連携

ユニーク&エキサイティング研究探訪
【No.34】 2014年4月 掲載
電力用太陽電池の効率を
飛躍的に増加させる次世代技術

量子ドットの密度を大幅に高める

山口 浩一 教授
大学院情報理工学研究科 先進理工学専攻

酒井 剛 助教

本学大学院情報理工学研究科先進理工学専攻の山口浩一教授らの研究チームは、次世代の高効率太陽電池技術である「量子ドット太陽電池」の効率を高める技術の研究に取り組んでいます。このほど、効率を大きく増加させることが可能な量子ドット作製技術を開発しました。

自然光や室内光などを電気に変換する太陽電池

太陽電池は、太陽光線や屋内照明光などの光を電気に変換する働きを持つ素子です。特に大面積の電力用太陽電池は、地球温暖化対策でもある再生可能エネルギーの候補として、大きな期待がかけられています。すでに集合住宅やオフィスビルなどの屋根に電力用太陽電池は普及し始めており、国内外では太陽電池モジュールを広大な敷地に並べた太陽光発電所の稼働が始まっています。

太陽電池のエネルギーコストを大きく左右するのは、光を電気に変換する効率です。実用化されている電力用太陽電池の効率はおおよそ14%から20%で、それほど高いとは言えません。このため、太陽電池で作った電気はコストが高く、政府や地方自治体などが補助金を出すことによって事業として成立させているという状態です。

電力用太陽電池の材料は主に、半導体のシリコンです。シリコン太陽電池の効率は理論的には約30%が限界とされています。そこで研究開発の分野では、効率が50%を超える次世代の太陽電池を実現しようとしています。その候補の一つが、「量子ドット太陽電池」です。

ナノサイズに電子を閉じ込める量子ドット

量子ドットの電子状態

「量子ドット太陽電池」とは、膨大な数の「量子ドット」を内蔵した太陽電池で、理論的な効率が63%と非常に高いという特徴があります。ここで「量子ドット」とは、数ナノメートルサイズから数十ナノメートルサイズの微小な領域に電子を閉じ込めた構造のことで、「3次元量子井戸」または「零次元電子系」とも呼ばれています。

シリコンに代表される半導体の内部を動く電子は、低い状態から高い状態へと連続的なエネルギーの状態をとることができます。これは言い換えると、3次元空間のどの方向にでも電子が移動できることを意味します。

これに対して量子ドットでは、飛び飛びのエネルギーの状態しかとることができません。特定のエネルギー状態に入れる電子は2個だけです。そして量子ドット内の電子は、3次元的にはどこにも移動できません。

このとびとびのエネルギー状態は、原子の内部で原子核の周囲に存在する電子が、特定の軌道、すなわち、特定のエネルギー状態しかとれないことと似ています。このため量子ドットを「人工原子」と呼ぶこともあります。

量子ドットそのものは太陽電池だけでなく、様々なデバイスへの応用が試みられています。山口教授が主宰する山口研究室が取り組んでいるのも、量子ドットのデバイス応用を目指した研究です。研究テーマの一つに、高効率太陽電池への応用があるということです。

量子ドットの密度を高める

量子ドット太陽電池の構造

量子ドット太陽電池では、量子ドットの数が多いほどそして集光度が高いほど、効率を上げることができます。このため、同じ面内に高い密度で量子ドットを数多く形成した層(量子ドット層)を、いくつも積み重ねることで、量子ドットの数を増やしています。ただし、量子ドット層をあまり多く積み重ねることは、製造工程が複雑になるとともに作製そのものが困難になるという問題があります。可能であれば、量子ドットの層数は少ないことが望ましいのです。

量子ドット太陽電池の電力変換効率と量子ドット密度の関係(理論計算)

このことから量子ドット層には、大きさが均一な量子ドットを高い密度で形成することが求められます。一般には、1平方センチ当たりに5×10の10乗個の量子ドットを形成した量子ドット層が作られています。このときに変換効率を50%にするためには、理論計算では600層以上の量子ドット層を必要とします。600層というのは多すぎて、あまり実用的な層数ではありません。量子ドットの1層当たりの密度を高めることで、必要な量子ドット層数を減らすことが課題になっています。

高密度で均一な量子ドットの形成が課題

量子ドットを形成した面を原子間力顕微鏡によって観察した像(左上)。量子ドットの平均直径は12nm、平均高さは2.5nm、材料はガリウム・ヒ素(GaAs)

そこで山口教授を中心とする研究グループは、量子ドットの密度を1平方センチ当たり10の12乗個に増やすことに成功しました。これは世界最高の密度です。この密度ですと、50%の効率を得るために必要な量子ドットの層数は30層に減少します。従来に比べると20分の1の層数で同じ効率を達成できることになります。

もちろん、実用的な量子ドット太陽電池の実現にはまだまだ数多くの課題があります。例えば量子ドットの大きさのばらつきを減らして均一にすること(均一化)です。高密度化と均一化は相反する傾向があり、このトレードオフをより高い水準でバランスさせなければなりません。

なお、この研究成果は、NEDOの研究プロジェクト「革新的太陽光発電技術研究開発」(注)の援助を受けて実施されました。

(取材・文:広報センター 福田 昭)